外でいろんな人に散々こき下ろされて、虚栄心も自尊心も向上心も対抗心もズタボロの状態で家のドアを開けたら、そこにだるまフランちゃんが待っててくれていた
「まだ、頑張れる…」
無意識にそう呟いた
アテにならないアドバイスばかりしてくる上司、人の意見を否定することが生き甲斐の同僚、理不尽な要求ばかりしてくる取引先、ストレス発散目的でクレーム電話をかけてくる顧客
それらを片付けた深夜。帰りの電車。すし詰めの最終電車には色々な人間が乗っている。喚くのが仕事のなんちゃってリア充集団、大口を開けてイビキをかく酔っ払い、鼻の曲がりそうな香水を顔にジャブジャブ塗りたくったおばちゃん、もっとすみに寄れと無言で僕の足を杖で叩いてくる老人
「もう一杯一杯だよ」
上着を脱いでベッドの上のフランちゃんを抱きしめる
何かすがれるモノが在るというのが、こうも有難いと知ったのは何時だったか
今日始めての温もりだった。満員電車の密集しヒーターで無理矢理温められた人間の熱など体温と呼んではならない
フランちゃんから伝わる優しい温もりが今日あった辛いことが全て過去に押しやっていく
腕の力を強めて、傷口のふさがった肩の切断面を撫でる
「んん…」
フランちゃんがくぐもった声を漏らす
(嗚呼…)
この反応が嬉しかった。この当たり前の反応が欲しかった。水面に石を投げたら波紋が生まれるくらいの当たり前の反応をずっと求めていた。
否定、無視、歪曲、誤解。社会にいる誰も彼もが、僕に正常な反応を返してくれなかった。だからフランちゃんが示してくれる反応が嬉しかった
ひょっとしたら、自分のした事がちゃんと周りに影響を与えている証が欲しかったのかもしれないとふと思う
「もう少しこのままでいるね」
磨り減った精神が元の形に戻るまでこの姿勢を維持することにした
四肢の無いフランちゃんには拒否権も無い
全部僕のされるがままだ
寒空の下に放り出すことも、女性を象徴するぽっちりとした乳首にピアスを開けることだってできる
でもフランちゃんにそんな事をしたいと思った事はない。フランちゃんがいなくなれば死ぬのは僕の方なのだから
「ごはんにしようか」
元気をもらい起き上がる
「フランちゃんは何が食べたい?」
いつも通り返事は無い。フランちゃんは手足を失ってからずっと衰弱している。うめき声や、弱々しく動く瞳でかろうじて意思の疎通が取れている
「消化のいいのにするね」
そう言って僕はレトルト食品を水が張った鍋に放り込んだ食事を終えたら一緒にお風呂に入る
三日に一回のペースで、ここでフランちゃんとセックスする
湯船に浸かり、バスタブに背中を預けてフランちゃんを抱えて挿入する。対面座位ですることが多い。胸で擦れるフランちゃんの乳首と肋骨の感触がまた気持ちいい
フランちゃんが「ウッ……アッ……」と小さな声を漏らし、締まりが良くなると、(気持ちよくなってくれている?)と都合の良い妄想をする
射精した後は、オナホのように扱ってしまったことに小さな罪悪感を覚える
風呂から出たらすぐにベッドに横になる
性欲が昇まると寝る前にもしたくなる
着せてあげたパジャマのボタンを外す背徳感がたまらない
フランちゃんの秘所はぴっちりと閉じた鴉嘴型で、肉がはみ出しておらず非常に整った形をしている
そこをじっくりと弄り、十分にほぐれたのを確認して挿入する。風呂場では乱暴に動く時はあるが、ベッドではなるべくフランちゃんを丁寧に扱おうと努めている。寝る前のストレッチのように。ポリネシアンセックスのように
もちろんフランちゃんの体調が悪そうな時は何もせず休ませてあげている。それくらいの我慢はできる
終わったらちゃんとパジャマを着直して眠りにつく
フランちゃんを布団の中で抱きしめて抱き枕にすることに、これ以上にない癒しを得ている
心が充電されていく。ドラックすら薄いと思わせる絶大な幸福感と安心感。この世のありとあらゆる不幸が。この抱擁で帳消しになると言っても良い
フランちゃんがいなければ僕はとうに廃品になっている。僕が廃品にならぬよう、メンテナンスをしてくれるのがフランちゃんである
フランちゃんは僕の、離れた臓器のようなものだ。無くなれば生きていけない。
フランちゃんがいれば、この温もりさえあれば他に何もいらないと実感する。今ならわかる。この温もりを手にするために人類は誕生したのだ。僕は人類の目的を果たした事になる。だからこの日を維持するために辛い日々の中を頑張るのだ。人類が滅亡するまで、この日々を続けるのだ
もうゴチャゴチャ考えるのはやめよう。フランちゃんと一緒にいられる時間は短い。朝日が登ればフランちゃんから離れて、あの煉獄のような日常の中にいかなければならない。
だからこの瞬間を噛み締めよう。1ミリでも深くこの温もりを体に染み込ませるのだ
今夜もゆっくり休もうねフランちゃん
明日も幸せに過ごそうね